■はじめに
アジアンドキュメンタリーズという、一か月990円でサイト内のドキュメンタリー映画が観放題になるサービスがあります。
一か月だけ、と思ってましたが結局さらに一か月延長しました。とても良質なドキュメンタリー映画ばかりだと思います。
それを二か月契約して観た作品を観て行った順に並べた紹介兼感想の記事です。
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ドキュメンタリー映画というのは、それを観ることで、いままで知らなかった世界を知ることができる。社会的な問題だったり、人々の暮らしだったり。
ナレーションがない作品が多いが、「編集」という作業がある関係上、どうしても製作者側の意図が入り込む。
多くが社会問題を扱う関係上、政治的思想など片寄りが出ることもあるでしょう。また隠し撮りではないわけで、カメラを対象に向け続けることで、まったくのナチュラルではなくなる。その点は、観る側のリテラシーとそれ以外の情報からバランスをとらなければいけない。あくまで知識の一旦、世界を知る手段、考える切っ掛けであると思っておいた方がいい気がします。
どの作品を観ても「幸せとは?」を考えてしまう。
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さて、二か月で17作品観たことになります。
どれも良い作品だし観る価値があるものばかりですが、
個人的にお勧めを5作品挙げるとすると、
「北朝鮮をロックした日ライバッハ・デイ」
「街角の盗電師」
「アフリカの少年ブッダ 」
「ハーツ・アンド・マインズ ベトナム戦争の真実」
「兵役拒否」
この記事に貼ってる予告編や私の感想で興味が出た方は、一か月でも良いので会員登録をして 観てみてはいかがでしょう。
(別に私はアジアンドキュメンタリーズの回し者 ではありませんよ(^^;)
では各作品の紹介です↓
■北朝鮮をロックした日 ライバッハ・デイ
2016年製作/北朝鮮/作品時間100分
アジアンドキュメンタリー入会一回目に観たもの。
スロベニアのロックバンドが北朝鮮でライブをする為の準備にかかわるトラブルやミスコミュニケーションの話。
予告編見て絶対面白い奴だと。予告編から受ける少しコメディ的な印象は薄く、監理と監視された北朝鮮内で、外国人であるロックバンドメンバーが出来ること出来ないことの妥協と調整のシーンがメイン。
北朝鮮の人々の生活の様子などを一部垣間見える、画面に映る市民は一様に幸せそう、スマホを持ってますしね。女子学生のピュアな笑顔や手をつないでいたり転寝しているシーンが印象的。バンドのマネージャー(?)も「人々は幸せそう」と語っている。
とはいえあくまで「カメラマンが入って撮ることができている管理された地域でのこと」であるというのは忘れてはいけない。果たしてライブは上手くいくのか…。
■街角の盗電師
2013年制作/インド/作品時間80分
これは予告編を見た時から観たいと思っていたもの。予告編だけでも面白い。
映画タイトルが名探偵コナンのサブタイトルみたいに格好いい。
盗電といういわば犯罪行為だが、犯罪行為というのは全体の一部(少数派)だからまともに対処できるわけで、住民の多くがそれを行っている状況だと対処は非常に困難になる。
基本的には取り締まる側の電力会社の新所長と、住民から頼まれ小銭を稼いで暮らしている盗電師の二つの視点で進む。二人がそれぞれ住んでいる家が映るがその生活レベルのギャップが印象的。
■縄文にハマる人々
2018年製作/日本/作品時間102分
以前 当宿のゲストさんで縄文土器に詳しい人がいて夜遅くまで語ったことがあり、この映画を観る動機となった。
タイトルに「~人々」とあるように、縄文土器や土偶の詳しい解説というよりも、それにハマる人々を映したもの。
画面に映る土器は有名なものもあれば、見たこともないもの、これは現代人が作ったものじゃないかと疑わしくなるもの(レプリカという意味でなく)、なども。
レリーフ(模様)に全て意味を見出すのはナンセンスとも思うが、レリーフの形が共通するものが多数あると、やはり何をあらわしているのか、どんな用途のものなのか考えてしまう。
アジアンドキュメンタリーズではナレーションが入らないものが多いが、例外的。
てっきりナレーションをしている声の人が監督かと思ったが、声は、水曜日のカンパネラのコムアイさんだった。視点が女性的だと思ったが書いたのは監督だろうか(監督は多分男性)。インタビューでいとうせいこうさんや佐藤卓(おいしい牛乳のパッケージデザインした人)なども出演している。
■世界で一番ゴッホを描いた男
2015年製作/パキスタン/作品時間54分
中国のとある町、ヨーロッパから頼まれた有名絵画の模写(贋作ではなくお土産用)を大量に描いている工房のお話。
終盤この工房の社長(?)がパリに行くのだが、街角のお土産物屋で軽々しく売られているのを見て「画廊で売られていると思っていた」と寂しそうなのが印象的だ。
ネタバレになるが、最後のシメのシーンで、主役の男の故郷の町の風景をゴッホのタッチで描いたものが一瞬だけ映ったがとても良かった。こういうドキュメンタリーは社会問題を扱う関係上やるせなさを感じるのだが、未来志向的で良い後味だった。
■K2 アルピニストの影たち
2015年製作/パキスタン/作品時間54分
舞台はパキスタン、エベレストより登頂が難しいK2登山の舞台裏。登頂を支える貧しいポーターたちの人間模様、そして美しくも無慈悲な大自然の姿とは?
淡々と映している。
登山家が山にアタックするためにベースキャンプとなる場所まで現地ポーターがあ荷物を運ぶ。貧しいポーターに「仕事を作ってあげてる」ともいえるが、もう少し分け前を増やせれないのか。胴元が取っていくと言っていたシーンもあった。契約以上の重い荷物でも給料増やさないとか…。
ネパールのポーターは恵まれているというが、何がシステム的に違うのか。
呑気な欧米系登山家(?)を一瞬映し出したり、ポーターに同情的な人の話もあり。低賃金で過酷な仕事環境を描いてはいるが、そんな中 男たちの笑顔を見せられるとなんとも。
■鉄の男たち チッタゴン船の墓場
2009年制作/バングラデシュ/作品時間90分
バングラディシュ南東部の港湾都市チッタゴン、世界中から現役を引退した船が集まる「船の墓場」。巨大な廃船をほぼ手作業で解体している労働者の話。
新しく船ができる一方で当然解体される船があるわけで、でもこのドキュメンタリーをみるまではそんな仕事があること自体想像することなんてなかったわけで。
大規模な商船の解体、かなりの金額の仕事だと思うのだが、そこで働く人々は危険な仕事に見合わない低賃金。観た後 自分にはどうしようもない、ただただやるせない。
■ラダック 氷河の羊飼い
2015年製作/インド/作品時間74分
標高3500mのヒマラヤ山脈麓の高地 インド北部のラダック地方で羊飼いとして生きるおばちゃんの話。
雄大な自然が映し出される。大量の羊が群れを成して動く様。そこに一人のおばちゃん。
草なんてほとんど生えていない荒れ地ばかりが広がり本当に羊はちゃんと食べれているのかと思うほど。この景色は広いが、情報としては狭い限られた世界で生きる姿に、モノや情報にあふれた日本に生きる自分とつい比べてしまう。生きるとは幸せとは。
■輪廻の少年
2017年製作/インド/作品時間95分
インドのラダック地方で、リンポチェ(チベット仏教の輪廻転生の高僧)とされる少年と、彼の世話役を務める僧侶との心あたたまる純粋な絆を描いたドキュメンタリー映画。
少年の瞳が美しい。世話役の僧侶の献身的な姿がこころを打つ。この少年は「自分は高僧の生まれ変わり」と「自称」したわけだが、それにより「普通の少年」としては生きることができなくなった…これは彼にとって幸せだったのだろうか。
終盤、世話役の僧侶と少年は前世で過ごしたチベットの町に向かう旅をするのだが、チベットからインド(ラダック)に逃げることはあっても、インドからチベットに行くことは普通はしない行為だ、それをかなり長い時間をかけてヒッチハイクしながら向かうわけだが、国境直前で売店のおばちゃんに行くのはヤメなといわれてやめてしまうのだが、そもそも、この旅に理想のゴールはあったのだろうか。
国境付近の吹きすさぶ雪の山中でほら貝を吹き、あちらの僧侶にも聞こえるように…という「綺麗な映像」で締めるのだが、ドキュメンタリー撮影側の演出が入っているようで少し穿って観てしまう。
■コーラと少年
2007年製作/ネパール/作品時間42分
ネパールでポーターとして働く少年、コーラの広告が付いた冷蔵庫を町まで届ける姿をおったもの。道中ネパールの村の人々の暮らしが垣間見える。普通の荷物を運ぶ人ともすれ違うが、この赤いコーラの冷蔵庫が絵になるのだ。逆に言えばコーラでなきゃ成立しなかった映像かもしれない…。
■カシミール 楽園の紛争地帯
2019年製作/インド/作品時間52分
インドとパキスタンの間に揺れるカシミール地方の話。紛争があることは知識として知っていたが実際の映像はおそらく観たことが無かった。
非常に綺麗な観光地もあるのだが、なんとも、もう少し上手いこといかないものか…。
■SAWADA 青森からベトナムへ ピュリッツァー賞カメラマン沢田教一の生と死
1996年製作/ベトナム・日本/作品時間115分
戦場カメラマンの沢田教一さんのドキュメント。ベトナム戦争で川を渡る親子の有名な写真を撮った人。
まず映像が古い。沢田さんがかかわった様々な人にインタビューをしている。
■遠い愛を求めて タイの花嫁たち
2018年製作/タイ・デンマーク/作品時間90分
デンマーク人と結婚したあるタイ人女性がデンマークの小さな漁村に移り住んだ、その後 彼女らはタイ人女性と漁村の独身男性を結びつける斡旋を始め今では多くのタイ人女性が暮らしている。
かなり長いこと取材をしており、何組かのタイ人女性の顛末が、タイでの貧しい暮らしやデンマーク人男性との関係性などが描かれる。
まだ10代前半(?)の息子を連れてデンマークに嫁いだ女性、その息子が現地の言葉を覚えレストランに就職して、独り立ちしていく姿が印象的だった。
■アフリカの少年ブッダ
2019年製作/マラウイ共和国/作品時間90分
アフリカのマラウイ、貧しい農村で養えない子供や孤児を集めた全寮制施設、そこで中国名を与え、中国語で中国式の教育を施す。正確には台湾の慈善団体らしいが、映像を観る限りではもう中国と等価とみていい。
この作品 とにかく「考えさせられる」。何かの作品を見て「考えさせられる」という感想を書くのはタブーなんです…その考えた結果や思ったことを書けと。なかなかこの辺の様々な思いを自分の中で言語化するのがむずかしい。
アフリカの文化とかけ離れた中国語・仏教など、それを小さいころから植え付けられ、青年になった男は自らのアイデンティティの狭間で苦しむ。
寮の寝室での会話、「仏教…キリスト教…全部外国から入ってきたものだ、どれも俺たちが生み出した文化じゃないじゃないか」みたいなシーンが印象的だった(セリフはうろ覚え)。(いや原始キリスト教はアフリカ発だよ…)
これは慈善事業なのか、支配なのか、洗脳なのか、教育なのか、愛なのか、ビジネスなのか強制なのか自発なのか…。途中挟みこまれる 中国人教師(武術の先生)との絆は、愛そのものだと思うが、それも単なる洗脳や教育の結果だと言えるだろうか…。
途中、生徒による「反乱」が起こるシーンがあり、ぞっとする。普段は従順だとしても、身体的にも屈強で、数も勝るアフリカ人生徒が、いざ牙をむいたときの恐ろしさ…。
私が南米を旅した時に、スペイン人に滅ぼされたインカの人々の歴史を知識として知った状態で、現在の現地のインディヘナの人々が教会に通っているのを観たときに感じたモヤモヤ…。太平洋戦争時、占領地で日本は現地で神社を建てたりしたが神道は占領時の教育には向かないよなぁ(聖典も鳥居以外の偶像もない教義もないので分かりずらい)とか。
諸々…とにかく「考えさせられる」映像だった。
■呼ばれていく国インド
2013年公開/日本/作品時間75分
社会問題を扱うことの多いドキュメンタリー映画だが、これは旅ログに近い。製作者のコメントが随時挿入され、身近な感じがして気軽に観れる。
この旅人がインドにいたのは2005年、岩崎圭一さん(バックパッカー界では有名人)がガンジス川をボートで下る旅に出発するシーンもある。ちょうど、私が中国ネパールインドと旅した中で、ネパールのカトマンズで同時期に岩崎さんがいたのだ。mixiなどから入る噂で旅人が集まって食事会みたいなのが開かれていたのは知ってはいたが、あの時 会いに行けばよかったなぁと。
この映像は自分が旅したまさにその時のインドの様子であり、懐かしいのと同時に、写真だけでなくこうやって動画に残しておけば良かったなぁと。何人か日本人の旅人が映し出される、みな当時の自分と「同じ匂い」がする。
■ハーツ・アンド・マインズ ベトナム戦争の真実
1974年制作/作品時間112分
非常に優れたドキュメンタリー映像だと思う。
基本的な構成として、アメリカ軍の兵士や将校関係者のインタビューとベトナム市民のインタビューや破壊された家の様子などが交互に映し出される。
前者は 理想や理念、爆撃を落とすときの精度の話とか、後者は爆撃で家が吹き飛ばされたり兄弟や子供が亡くなった話など。いくつか有名な写真のシーンが出てくる、これ動画でも撮られていたのかと。
特に印象的だったのが、銃撃のさなかでインタビューされている米兵、「(この戦いに)価値はあるか?」と聞くと「ある目的のために闘っていると聞いている」と。
もう一方、毎日必要とされるベトナム人の為の木の棺を作っていた男の目と言葉が印象的だった。「帰国してニクソンに言うといい。食べる米があれば俺たちは限り戦い続ける
米が無くなったらまた耕して戦うぞ」と。
私は2019年の1月にベトナムを旅しましたが、その際もベトナム戦争のこと調べたり、博物館に行ったり、その後もNetflixでドキュメンタリー映像を観たり、wikiで調べたり…でも、結局 なぜ戦ったのかよく分からない…共産圏勢力との戦い?代理戦争?
ベトナム人があれだけ殺されたのはなんなのか…。米兵の若者が死んでいったのはなんだったのか…。
映画最後のシーン、ベトナムの沢山ならんだ墓穴の映像の後、スタッフロールと同時にアメリカの勝利パレードの様子…あれ?アメリカが勝ったんだっけ?
■兵役拒否
2019年製作/イスラエル/作品時間75分
徴兵制が義務付けられているイスラエル、軍人一家で育った女子高生のアタルヤは家族の反対を押し切り兵役を拒否する。徴兵の前後数か月の話。
私がエルサレムを旅したのは2007年だったか。兵士との接触は岩のドームへの行き方が分からずある道の入口にいた兵士に道を聞いたこと、あとは生誕教会へいくときに壁を越えた(国境を超えるような手続き)時くらいか。パレスチナ人としてはヨルダンの宿で(有名な宿スタッフ)サーメルと話したことだろうか。実際にその町に行った私でもこの程度、通常日本人としては遠い話である。
国を持たなかったユダヤ人が「元々われらの土地だ」と支配するようになり、「元々住んでいた」パレスチナ人の生活圏をどんどん侵食していっている。アタルヤを説得する家族の会話の中で「敵」と出てくるが「敵」って誰なんでしょうね…。
それにしてもユダヤ系の人は美男美女が多いのか、本当に「絵になる」。テレビで娘アタルヤが自分の考えを話しているのを観る母親のカットとか、映画のよう、いや映画なんだけど。
■爆弾処理兵 極限の記録 (ノーカット完全版)
2017年製作/イラク/作品時間83分
こんな終始 ハラハラするドキュメンタリーがあっただろうか。
イラク国内では、武装勢力「イスラム国」(IS)が、占領地から撤退する際に残していった「死の置き土産」といわれる仕掛け爆弾がある、それらは民家や自動車など、市民の生活の場に仕掛けられ、避難先から戻った住民らが少しでも触れると爆弾が起動し、無差別に殺戮を行う非人道兵器だ。
爆弾処理兵のファーケルはペンチ片手にカメラの前で処理をしていく。冒頭からファーケルの息子と奥さん(?)が、父の仕事を振り返るように語りだし、記録したビデオを観る現在のシーンをなんども挟む、この構成上で、あぁお父さん(ファーケル)は爆弾処理中に亡くなったんだなというのは薄々分かるわけだが、それゆえに、記録映像の前でファーケルが次々と一見無造作に爆弾を処理していく場面で、いつ爆発するんだとハラハラする。実際に「何度も」爆発するわけだが…。
ファーケルの言葉で「なぜ危険を顧みずこの仕事をするのか?と聞かれるが、失敗しても死ぬのは私だけだが、成功すれば多くの命を救える」と。
とりあえず、紹介はここまで。
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